1970年以降に生産された自動巻(PERPETUAL)ロレックスの場合、自動巻き上げ効率が非常に優れているので、手巻きは出来る限り行わずに腕の動きだけで巻き上げるのが、最も効率的で内部部品に負担のかからない使用方法です。
手巻きを頻繁に行いますと、内部の部品の摩耗や変形の原因となります。
微細な部品にとって、人間の力は大変な負担です。
無理な手巻き動作によって各部品を痛めた時計が当社に数多く依頼されております。
↓画像は5年以上オーバーホールされずオイル切れが発生していたにもかかわらず、手巻きで半ば無理やり動作させていたため、ロレックスの自動巻きの動作の要となる切替車が破損していた例です。
下の正常な切替車と比較すると、白丸で囲った12時付近の孔が削られて拡がっているのが確認できます。
この歯車は大変高価な部品のひとつです。
停止した状態から使用するときのみリューズで10回ほど手巻きを行い、あとは腕の動作によってゼンマイを巻き上げることを推奨しております。
極端に運動量の少ない場合は例外として、一日腕に装着していて翌朝までに停止するようであれば、自動巻き機構の不良が考えられますが、そういった症状が出ない場合は自動巻きのみでご使用ください。
毎日手巻きを行っていた場合、半ば強制的にゼンマイを巻き上げる事になるため、自動巻き機構に異常が発生していることに気づかず、いよいよ停止した際には数多くの部品が破損、磨耗しており高額の修理代となった例もございます。
何らかの機械的な異常がある場合は、時間の狂い=精度の他、夜に腕から外すと翌朝までに停止するといった持続時間に現れますので、この点にご注意ください。
”自動巻き時計は機械モノだから常に作動させておいた方が良い”という謳い文句(自動巻ワインダーの宣伝文句??)がありますが、当社はこの考えに対して否定的な見解を持っています。
「常時作動させておかないと、機械式時計のどの構造部分へ、具体的にどのように悪影響を及ぼすのか?」という疑問に対して明確な理論に基づく回答がどこからも得られないのです。
あまり長い期間停止させておくのはともかく、1か月程度、常温で湿気の少ない環境下ならまったく悪影響は無く、むしろ常時作動させておく事の悪影響の方がよっぽど懸念されるのです。
車のエンジン設計に携わっている時計好きの方と、回転軸とオイルの関係についての話になった際、”停止状態から回転軸が動作し始める際、ごくわずかだが軸の接触面に油膜が途切れる瞬間が存在する”との話を聞いたのですが、この瞬間に限っては、常時動作させておいたほうが良い根拠とも言えます。
長くエンジンをかけずにいた車の場合、この「動作し始める瞬間」というのがもっともエンジン部品の摩耗を招くのだそうです。
ただ、私が”時計の回転軸周辺は、表面張力で停止時もほぼ常時オイルが保持されている”と伝えたところ、「あ、それならさほど悪影響無いですよ」との事でしたが。
あまり長期間(1 か月以上)使用しないとオイルが固着することも考えられますが、月2~3回の使用でしたら、まず問題無いといえます。
現代の化学合成の時計用オイルの場合、固着するのは停止させていた事よりも、湿気や酸化でオイルの粘性が変化してしまうためでしょう。
そんな本来の役目を果たさない状態のオイルのまま、常時作動させて無理に固着を防いだとしても、更なる部品の摩耗を進行させるだけです。
むしろ固着して停止していてくれたほうが、よっぽどムーブメント(内部機械)の状態は良好である事が多いのです。
動作時間が短くなっているのに手巻きで無理に動かし続けていたり、自動巻きワインダーにずっとかけていた時計がいよいよ停止した場合、交換部品の数が非常に多くなり、結果高額の修理となる事例が非常に多くなっております。
下の画像はオイル切れのまま長期間使用していたため、中心軸がえぐれたように磨耗してしまったロレックスの歯車です。
こちらが磨耗していない正常な歯車です。